詩を味わう『ポケット詩集』

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 024:ほほえみ ― 川崎 洋

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 024:ほほえみ ― 川崎 洋  より

「ビールには枝豆

カレーライスには福神漬け

夕焼けには赤とんぼ

花には嵐

サンマには青い蜜柑の酸

アダムにはいちじくの葉

青空には白鳥

ライオンには縞馬

富士山には月見草

塀には落書

やくざには唐獅子牡丹

花見にはけんか

雪にはカラス

五寸釘には藁人形

 

ほほえみ には ほほえみ」

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 023:森の若葉 ― 金子光晴

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 023:森の若葉 ― 金子光晴  より

「なつめにしまっておきたいほど

いたいけな孫むすめがうまれた

 

新緑のころにうまれてきたので

『わかば』という 名をつけた

 

へたにさわったらこわれそうだ

神も 悪魔も手がつけようない

 

小さなあくびと 小さなくさめ

それに小さなしゃっくりもする

 

君が 年ごろといわれる頃には

も少しいい日本だったらいいが

 

なにしろいまの日本といったら

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 022:夕方の三十分 ― 黒田三郎 より

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 022:夕方の三十分 ― 黒田三郎  より

「コンロから御飯をおろす

卵を割ってかきまぜる

合間にウィスキイをひと口飲む

折紙で赤い鶴を折る

ネギを切る

一畳に足りない台所につっ立ったままで

夕方の三十分

僕は腕のいい女中で

酒飲みで

オトーチャマ

小さなユリの御機嫌とりまで

いっぺんいにやらなきゃならん

半日他人の家で暮らしたので

小さなユリはいっぺんにいろんなことを言う

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 021:ふゆのさくら ― 新川和江

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 021:ふゆのさくら ― 新川和江  より

「おとことおんなが

われなべにとじぶたしきにむすばれて

つぎのひからはやぬかみそくさく

なっていくのはいやなのです

あなたがしゅろうのかねであるなら

わたくしはそのひびきでありたい

あなたがうたのひとふしであるなら

わたくしはそのついくでありたい

あなたがいっこのれもんであるなら

わたくしはかがみのなかのれもん

そのようにあなたとしずかにむかいあいたい

たましいのせかいでは

わたくしもあなたもえいえんのわらべで

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 020:葉月 ― 阪田寛夫

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 020:葉月 ― 阪田寛夫

より

「こんやは二時間も待ったに
なんで来てくれなんだのか
おれはほんまにつらい
あんまりつらいから
関西線にとびこんで死にたいわ
そやけどあんたをうらみはせんで
あんたはやさしいて
ええひとやから
ころしたりせえへん
死ぬのんはわしの方や
あんたは心がまっすぐして
おれは大まがり
さりながら
わいのむねに穴あいて
風がすかすか抜けよんねん
つべとうて
くるしいて
まるでろうやにほりこまれて
電気ぱちんと消されたみたいや
ほんまに切ない お月さん
― お月さん やて
あほうなことを云いました
さいなら わしゃもうあかへん
死なんでおれへん
電車がええのや
ガーッときたら
ギョキッと首がこんころぶわ
そやけど
むかしから
女に二時間待たされたからて
死んだ男がおるやろか
それを思うとはずかしい」

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 019:僕はまるでちがって ― 黒田三郎

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 019:僕はまるでちがって ― 黒田三郎

より抜粋

「僕はまるでちがってしまったのだ
なるほど僕は昨日と同じネクタイをして
昨日と同じように貧乏で
昨日と同じように何にも取柄がない
それでも僕はまるでちがってしまったのだ
なるほど僕は昨日と同じ服を着て
昨日と同じように飲んだくれで
昨日と同じように不器用にこの世に生きている
それでも僕はまるでちがってしまったのだ
ああ
薄笑いやニヤニヤ笑い
口を歪めた笑いや馬鹿笑いのなかで
僕はじっと眼をつぶる
すると
僕のなかを明日の方へとぶ
白い美しい蝶がいるのだ」

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 018:生命は ― 吉野弘

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 018:生命は ― 吉野弘

より

    「生命は
    自分自身だけでは完結できないように
    つくられているらしい
    花も
    めしべとおしべが揃っているだけでは
    不充分で
    虫や風が訪れて
    めしべとおしべを仲立ちする
    生命は
    その中に欠如を抱き
    それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分
他者の総和
しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?

花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない」

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 017:儀式 ― 石垣りん

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 017:儀式 ― 石垣りん

より

    「母親は
    白い割烹着の紐をうしろで結び
    板敷きの台所におりて
    流しの前に娘を連れてゆくがいい。

洗い桶に
木の香のする新しいまないたを渡し
鰹でも
鯛でも
鰈でも
よい。
丸ごと一匹の姿をのせ
よく研いだ包丁をしっかり握りしめて
力を手もとに集め
頭をブスリと落すことから
教えなければならない。
その骨の手応えを
血のぬめりを
成長した女に伝えるのが母の役目だ。
パッケージされた肉の片々を材料と呼び
料理は愛情です、
などとやさしく諭すまえに。
長い間
私たちがどうやって生きてきたか。
どうやってこれから生きてゆくか。」

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 016:父 ― 吉野弘

詩を味わう『ポケット詩集』2 - 016:父 ― 吉野弘

より

    「何故 生まれねばならなかったか。

子供が それを父に問うことをせず
ひとり耐えつづけている間
父は きびしく無視されるだろう。
そうして 父は
耐えねばならないだろう。
子供が 彼の生を引き受けようと
決意するときも なお
父は やさしく避けられているだろう。
父は そうして
やさしさにも耐えねばならないだろう。」

以上、引用は、田中和雄 編『ポケット詩集〈2〉』P60、61より

こういう詩は苦手です。

詩を味わう『ポケット詩集』2-015:雪 ― 三好達治

詩を味わう『ポケット詩集』2-015:雪 ― 三好達治

より

    「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
    次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。」

以上、引用は、田中和雄 編『ポケット詩集〈2〉』P58より

ほんと短い詩です。
でもその感じが充分伝わってきます。
寒い冬の中
しんしんと雪が降り続いている
そんなシーンが浮かびます

かなり大粒の雪で
窓から遠くの景色を見ることも出来ません
そんな土砂降りの雪です

次の日には数十センチの積雪があったでしょう

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